大賞発表

第3回 JIA北海道支部 建築大賞2022の各賞の発表を掲載しています。

大賞
O project

宮城島 崇人/(株)宮城島崇人建築設計事務所

審査委員/米田 浩志

建築の質を保証するものとして予め準備する方針(コンセプト)とそれに伴う実態との整合性は言うまでもないが、同時に建築固有の論理も重要な評価の視点になる。つまり、自律した表現性の有無である。今回大賞を受賞した「O project」も他の作品と同様、事前に準備されたテキストを参照しながら現地審査を行なった。現地ではコンセプトとの整合性を確認し、同時に建築固有の表現である各エレメンツの納まりやスケールの操作、そして素材とテクスチャの扱い方を体感した。この作品は、事前に準備されたテキストの説得力以上に自律した建築表現の強度が印象深かった。内部においては、既存の建築から増築した空間に至る境界部分に心地よい額縁状の開口が配置されていた。その額縁の存在は、日常と非日常を静かに接続し、増築部分をあたかも生活における舞台のように設えていた。また、増築部分の大きな窓からは公園の紅葉の風景が建築内部にダイナミックに流入していた。今後、増築部分が機能するかどうかは、生活者に関わることではあるが、仮にプログラム通りアクティビティが機能したなら外部との関係がより有機的になるに違いない。その時は、まさに公園側からの増築になる建築である。小さな作品ながらも極めて完成度の高い建築であった。

審査委員/高木 伸哉

既存の2×4住宅の増築改修プロジェクト。食を仕事にする建主でキッチンが増築されたが、その向こうは隣接する公園。既存の躯体は閉鎖的なので、増築部を開放的にデザインすることで既存住宅に公園の自然環境を採り込もうという考えだ。しかしその方法はよくあるサンルームと全く異なる。むしろ庭に建てる離れを母屋に密着するほど近づけたつくり。増築部は構造も意匠も全く独立して、離れのままなのだ。それが顕著なのは、床スラブを既存住宅床から400ミリ強上げていること。それは視線などを考慮する増築部だけの理屈から来ている。ここでは接着した離れという方法が生み出すさまざまな良さが発見され、評価に繋がっていた。最も印象的なのが、既存部ダイニングから見た増築部キッチンの風景。まるでプロセニアムに切り取られたステージの上にキッチンがあり、料理人の舞台のよう。あるいはダイニングの天井が深い軒のように背景の樹木を美しく切り取る。増築部の開放感は当然だが、既存部がこれほど豊かになることは写真で気づかなかった点だ。両者は成り立ちが全く違うにもかかわらず、一体的に調和しているのだ。既存・増築のとりあい部の豊かさは、同じことが屋上でも見られる。増築部で想定されている菜園の床は、既存部の近くでベンチになり、テーブルになるだろう。使い方のイメージは膨らんでゆく。ただ設計主旨で説明されたほど、増築部と公園の相互関係はまだイメージできなかったが。このプロジェクトは、増築部を接続するだけで、既存部分も魅力を増す(姿やプランを変えなくても)という、リノベーション手法のひとつの典型になるだろう。


住宅部門優秀賞
富良野の異形屋根

高木 貴間/高木貴間建築設計事務所

審査委員/米田 浩志

「富良野の異形屋根」は、広大な農村風景の中で生活者の拠り所として存在している。この建築を俯瞰的に見ると点としての存在ではあるが、遠くから見ると点から波紋のような拡がりを生み出している。この点としての建築は、農村風景において形や色、そして素材を介在させながら象徴的な記号になる。家の形のイメージは、屋根の形状によって決定すると言える。60年代以降広まった北海道の異形屋根は、三角屋根のように強い形式ではないものの、ある意味不定形であるが故に周囲との関係を形成してきた。今回この作品は、その不定形さに着目しながら土地と新たな関係を作り上げている。また、異形屋根を際立たせているファサードには、透明なポリカーボネイトを付加させ、農村風景に点在しているビニールハウスと素材の重層関係をも作り出している。さらに内部においては、外部的な土間の配置によって、外部と内部とは異なる新たな空間が再構築されている。この土間空間は、いわゆる風除室を拡張し、親世帯の1階と子世帯の2階を結び付け、特に雪景色が拡がる冬には、必要不可欠なアクティビティ空間として機能している。北海道の風景の記憶が生活者(建築家)の実体験によって外延化された秀逸な作品であった。

審査委員/高木 伸哉

二階建て農家住宅を二世帯にリノベーションするプロジェクト。その際ふたつの課題があった。ひとつは床面積が不足すること。もうひとつは目の前の、長年暮らしを支え大切にしてきた畑に開くこと。北海道の環境に適応した開き方は?しかもローコストで。このふたつの課題を一度に解決しているのが、半屋外空間の増築だ。ここに上下世帯を繋ぐ階段と土間を配置して、もとの動線を居室に充てることができた。プランは大きく変えられ、既存部の畑側は開放。そのときもう1層半屋外を加えることで、外部環境とのバッファとなる。いくつもの襞を通じて季節を問わず1日中感じていられる畑の風景は、独特で新鮮だ。環境との境界で多重のレイヤーをつくることは、寒冷地における環境と応答する手段のひとつで、ここにさまざまな知が注がれている。この住宅は、地域の暮らし方と風景を変えるマスターピースになるだろう。その環境装置がファサードを覆い、建物の顔となっているのが象徴的だ。夕景にほの光るであろう光景もぜひ見てみたかった。そしてこの増築部は、奥行きのスケールで空間の性質が変ってくる。小さいとただの風除室だが、深いと居場所になる。ここではそのギリギリのスケールは担保されていた。


一般部門優秀賞
會澤高圧コンクリート株式会社深川工場

圓山 彬雄/(株)アーブ建築研究所

審査委員/米田 浩志

単一の機能性を印象付ける工場は、アクティビティへの拡がりに直結しないのが一般的な捉え方である。とは言え、工場の特性である大きな容積や開放感は、さまざまな利用方法の可能性を秘めている。例えば、展示スペースやイベントスペース、あるいは体育館、さらには非常時の避難施設として利用が可能であろう。工場は想像以上に転用性を有しているのではないだろうか。そのようなことを再考させられたのが「會澤高圧コンクリート株式会社深川工場」であった。この作品を体感することによって、さまざまなアクティビティの可能性が喚起された。その理由には、独特の曲線を有したPC材のシェイプや接続部分のディテールによって有機的なイメージが表現されていたことにある。このような建築的操作によって内部空間には想像以上の豊かさが生み出されていた。さらには、PC用の鋼製型枠を再利用することによって部材の再生産が可能となり、この構造システムの一般化と環境負荷への低減にもつながる。工場というある意味無機的で寒々しいイメージを持つ機能に対して、この作品は一般的な概念を覆す建築の可能性が提示されていた。工場利用とは異なる風景を、この空間で体験してみたいと想像させられる作品であった。

審査委員/高木 伸哉

PC部材を製造する工場自体を、PCでつくるプロジェクト。内観の第一印象は、世紀末の鋳鉄造工場を思わせる重厚かつリズミカルな迫力。土木のPC構造と違って、繊細さも感じた。現代の高性能PC技術があればこそ生まれる構造美がここにある。これからもっと建築でPCが使われてもいいと思わせる事例だ。その建築PC造の広がりに現実味を感じるポイントのひとつが、今回の型枠流用だ。先行別プロジェクトであった体育館PC造に使われた型枠が再利用され、その体育館と同形のPCが工場に使われた。スパンと高さが継ぎ増しされてスケールの違いはあるが。型枠の再利用にあたっては、強度を増す必要があるなど課題はあるものの、その可能性は注目すべきで、私たちの架構の選択肢がもうひとつ増えるかもしれない。また、ここではPC門型架構のデザインの可能性も感じることができた。架構の連続を拡張することによる増築や、スパン間の仕様の自由度、PC部材接合部のディテールなどで、さまざまなアイディアが生まれてきそうだ。


審査委員賞(飯田賞)
浦河フレンド森のようちえん

照井 康穂/(株)照井康穂建築設計事務所

審査委員長 / 飯田善彦

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審査委員賞(米田賞)
界川の家

堀部 太/堀部太建築設計事務所

審査委員/米田 浩志

住宅地と自然の境界域に建つ住宅である。一方は、人々の生活が密集した風景、もう一方は人の手が加わっていない自然の風景、その間を結ぶように直方体状の箱(家)が置かれている。内部は、箱状の輪郭が認識できるようなワンボックス的な一室空間である。自然の領域側には大きな開口部と多様な大きさの開口部が設置され、十分に自然の美しさを享受できる空間である。自然の絶大なる存在力なのか、開口部という限定された枠組みではあるが、想像以上に自然現象のダイナミズムを体験することができる。このような外部と内部の関係は、北海道の風土特性を踏まえた上での建築形式と言える。北海道の自然の強い実存感、特に冬の季節は、自然性(外部的イメージ)が開口部から流入してくる錯覚感がある。そのような現象(印象)を前提にすると、内部空間には擬似的な外部性が形成されるとも解釈できる。「界川の家」においては、その空間特性が表出化されていた。生活者たちは、この外部性を有した内部空間と共振しながら、さまざまなアクティビティを生み出しいくことに違いない。その余地と可能性を与えているのがこの作品の魅力であった。北海道の建築形式の一つとして評価できる作品である。

審査委員賞(高木賞)
レストラン フェネトレ

赤坂 真一郎・佐野 光 /(株)アカサカシンイチロウアトリエ

審査委員/高木 伸哉

豊かな自然に満ちた森の中の、レストラン兼住宅のプロジェクト。レストランが2階に、住宅を路面の1階に配置され、商業施設としては稀なゾーニングだが、それは環境と営業スタイルに理由があった。この建物は樹木に近い。その緑を提供するなら2階だ。また屋外テラス席への拡張を想定しなかったこともある。そしてレストランは完全予約制。道路から離れた森の中で、客足を捕まえる必要はない。とは言っても、子どもがいる1階の生活との動線の混乱は懸念されたが、それこそがこの建築のユニークなところだと感じた。入口はレストランと住宅で兼用されている。その直前がガラス壁で、住宅内を全部見通せてしまうのだ。1階は地形に応じて入口から奥へと徐々にレベルが下がってゆき、つきあたりの開口部で森へ通じている。入口からの視線は向こうの森まで抜けてゆく。もちろん営業中はスクリーンで閉めている。しかし、客を家族ぐるみで迎えられる可能性を秘めているのがこの建築だ。それはレストランの姿勢と合っている気がして、客商売と暮らしの新しい関係を感じた。2階で夫婦が客をもてなす気配を、1階の子どもが感じながら過ごす生活がある。十字型のプランは客席相互の距離感を絶妙に演出するスケールでできている。全体感がありながら個別の領域が担保されているのだ。その構成が住宅で共用できる発見も面白い。2階開口部の風景の切取り方、インテリアのディテールや配色も美しい。

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