再見「ロングランエッセイ」の十と一

圓山彬雄です。リプランで、連載していたエッセイに、コメントをつけてみようと思ったついでに、ブログに投稿することにしました。よろしく。

2:「 円  卓 」  住宅雑誌リプラン17号(平成4年7月1日より転載)

少し大きめの、円いテーブルの食卓を囲んで、夕食をごちそうになった。いつもは4人で食べるそうだが、少しずつつめて6人で座った。四角なテーブルでは、そうはいかない。無理に多人数で座ろうとすると、角にあたってしまう人が出る。それこそ、円く納まらず角が立つ。国際会議なども、円卓会議のほうが和やかになるというのもこの座り方だからに違いない。
大体ソファに座るより肘付きの大ぶりの椅子に座るほうが、姿勢が崩れずだらしなくならないので、話をするのには都合が良い。普段はそのテーブルの上でそれぞれが宿題をしたり、簡単な書類の整理をしたり、ゆっくり煙草をくゆらせたりしてもお互いに邪魔にならないという。
そうしてみると、ここは食堂というより居間に近い。いや居間というより、茶の間というのにふさわしい。
かつて茶の間には、卓袱台(ちゃぶだい)という円い折りたたみ式の食卓があった。足をたたんでころころと転がして、部屋の片隅に立てかけて置いたものである。円くなっていれば、どんな人数の家族でも使いこなせるという知恵から生まれた道具である。
たたみを捨てると同時に、円いテーブルで食事をする良さと利点を、一緒に捨ててしまったのはもったいないことである。

十:茶の間は、家の重心だった。家族が、みな忙しくなったせいか、キッチンとつながったテーブルが多くなって、ゆっくりできない感じがする。ゆっくりできるカフェやレストランでは、肘付の椅子が置いてあるが、これが落ち着きをもたらす。円卓が置けなくとも、肘のある椅子を置くとゆとりができるが、やはり、茶の間の持つ優しさを大事にしたい。