再見「ロングランエッセイ」の+と-

26:「 紙 障 子 」  住宅雑誌リプラン41号(1998年7月1日)より一部転載

和室が少なくなったせいか、紙障子を見ることが少ない。私は、紙障子の持つ風合いを楽しむために、和室に限らず大きな洋室の居間や茶の間の窓の内側に紙障子を使うことが多い。二重硝子の窓の内側に紙障子を設けると断熱効果もある。さらに断熱効果を高めるために、桟の両面に紙を貼ることもあるが、これは、桟に埃が溜まることが無いので、桟の掃除が面倒な人にも喜ばれる。もっと断熱効果を上げたい人は、さらに厚手のカーテンをすれば、ねんねこを着込んだように完璧である。しかし、厚手のカーテンをすると、外から家の灯りがちっとも見えないので寂しい。
北ヨーロッパの住宅を見学した時、小振りな居間に1メートル近い大きさの紙提灯が、堂々とぶら下がっていたのに驚かされた。イサム・ノグチのデザインした紙の提灯であったが、これも紙提灯といえる。冬に長い夜を過ごす北国の人たちが、灯りに対して如何に敏感であるかを教えられ、明るさよりも、むしろ灯りの表情や光の質感に気を使っているのを感じた。その彼らが、和紙や紙障子の良さを灯りの面から評価してくれていたのである。私たちも、紙障子を伝統的な素材というより、新しい光の素材、灯りの素材として、住まいのなかに取り入れたいものである。

+:紙障子は、そばを通る人や物の影を映すので、不思議な広がりを感じる。おぼろげな影から、何者かを思い浮かべ、妖しい世界に誘い込む力を持つので、影があるだけで、想像力のある人、それぞれに妖しい世界を創り出す。紙障子が現実の世界にフェイクの世界を同居させることができる。
紙障子を宿泊施設の大浴場にまで、水に強いワーロン紙を貼って付けた。男風呂と女風呂の間を紙障子だけで仕切りたかったが、さすがにそれは許されなかった。これからますます女性の力が強くなったら、本当に薄い紙障子だけになるかもしれず、お互いに、紙障子に映る影から、妖しい世界を夢見ることができるようになるかもしれない。
今回の大浴場の紙障子は、コンクリートの壁でしっかり仕切られているが、女風呂の様子が紙障子に影が映るかも、とワクワクするのも温泉場の楽しみかもしれない。