再見「ロングランエッセイ」の+と-

17:「 銀 花(ぎんか)   」  住宅雑誌リプラン32号(1996年4月1日)より一部転載

今年は雪が多い。
間口いっぱい雪の山である。そのために少しでも除雪の苦労を少なくしたいと、道路ぎりぎりに車庫を置く家が多い。家の玄関は見えなくともスチールの車庫だけは見える。そんな家の多い小路に入ると車庫ばかり見え、家並みではなく車庫並みという方が正しい。
それでは哀しいと、わが家では木製のルーバーを設けて車庫替わりにしている。ルーバーだから、雨も雪も隙間から落ちるのだが、雪が多めに降るとルーバーの桟に積もった雪がとなりと連なってくっついて落ちない。一度連なると春まで落ちない。1m以上も積もってルーバーの下の雪は少ない。冬だけの屋根だから、うっとうしくなくて爽やかである。
ルーバーの柱と梁にまとわりついた雪が、不思議な梅雨っぽい造型を見せたことがある。雪のことが白い花、銀花~ぎんか~とも呼ばれるということは知らなかったが、なるほど、これも大輪の銀花かと思った。
何とも云われ難い造形でこんなに身近に自然の持つ魅力、造型の力を見ることが出来るとは思わなかった。まさに大輪の銀花と呼ぶにふさわしく、雪の蘭のようにも見えた。
便利な金属製の車庫には、雪と風が作った花・銀花は決して咲かない。

:25年前に咲いた「銀花」はそれ以降見たことがない。湿った雪が一晩のうちに降った時に出来たものだが、これを咲かせた木製ルーバーのポーチはもう無い。
木部に積もった雪をすぐ落とせば良いが、雪が溶けて水になると木部に浸み込み、それが寒さで凍って膨張すると木の繊維の間に入って、木を壊してしまうので永持ちしない。
それでは、とルーバーの上側に一本一本薄い鉄板を貼り付けたら、雪は滑り落ちて雪が止まらず下に積もった。ベニアを貼って鉄板で屋根を葺いたら、やっぱり暗かった。ガラスは割れたら恐いと思っていたら、近頃はポリカーボの厚めを使うと良いという。さらに、柱と梁などに使う金物も良くなったので、既製の鋼板の車庫を避けて、木組の上にポリカーボを載せるカーポートや、テラスカバーを勧めている。
傾斜屋根で、寄付(よりつき)の庇の低い、優しい顔つきの家に合うので、除雪が大儀になって車に乗らなくなった人にも寄り付きやすいように、ポーチ用にも勧めている。