再見「ロングランエッセイ」の+と-

33:「 寒さ 」  住宅雑誌リプラン48号(2000年4月1日)より一部転載

今年※の冬にマイナス33.6度迄、気温の下がった陸別に出かけた。その日の朝も、マイナス25.5度迄下がった。風が無いので、外に出てすぐは、それほど寒さを感じないが、衣服の温度は、一気に下がる。そうするうちに、寒さが一直線に襲ってくる感じになると、心まで冷えてくる。オーロラも見えるという天文台に登り、天体望遠鏡で北極星や土星を見せてもらい、屋上に出て星空を眺めているうちに、身体は、しんしんと冷える。
弟子屈で、障害のある人にも優しい平屋造りの、小さな良心的なホテルが出来た。そこを経営する人が、来られる前に暖めておく部屋の床暖房の温度の調節が難しいという。寒さに対する感じ方が、違うのだろうか、来られた人の地域や地方によって、求める暖かさが違うという。寒いから温度を上げてくれといってくる一番は、北海道の人だという。内地の人は、寒く感じると軽く一枚羽織るが、北海道の人は、薄着のままで寒い、寒いと騒ぐという。  過ぎたるは、及ばざるが如し。部屋の中を暖かくしすぎるのも…と考える。

※このエッセイは2000年春に掲載されたものです

+:秋口に落ち葉を集めて焚き火をすると手をかざして温まろうとする。顔もあったまると焚き火に背を向けて、手のひらだけ焚き火に向けて温まる。工事現場でも、余った材木などを燃やして、寒いねーっ、そだねーっと朝の挨拶交わしてから、仕事に取り掛かっていた。そこで、段取りや子供のことなど話して、さてーっと持ち場に行ったもので、現場が進めば進むほど、現場の一体感が出来上がって、仕事が終わる頃には、仲間意識が生まれたものである。
焚き火の温かさは、輻射熱といって、距離が二倍になると半分になり、距離が三倍になると九分の一になるというので、寒いうちは、皆、身体を寄せるせいもあるからか、仲間意識が強くなって、お互いの仕事の取り合いや収まりに、話がいくので、落ち度の少ない家ができていた。一軒の家をみんなで造ろうと気持ちが良いものを産む。