再見「ロングランエッセイ」の+と-

46:「 楊柳亭 」  住宅雑誌リプラン61号(2003年7月1日)より一部転載

 大正十年に移築された、楊柳亭・雨山茶席と呼ばれた茶室を見た。四畳半台目という大きさで、洞床という珍しいタイプの床の間を持つ、意欲的な茶室である。茶室というのは、眺めることより、使ってみることが大事と、八十年前に造られたこの楊柳亭でお茶会をしてみたが、やはりそのお茶室のなかで頂いた薄茶は格別であった。
 にじり口から入ると低く造られた天井さえ、心地よい高さに感じられ、細みの柱や木の造作は優しく、塗り壁はしっくりした味わいをかもし出し、しみじみとした雰囲気となっている。あたりをゆっくり見回すと、どれもがきれいとか立派ではないが、時を刻み込んだ、少し汚れたような味わいを持っている。外の明るい陽射しの爽やかさとは違って薄暗いけれど、時間が経つほどに自分達の心が安らいでくると、次第に周りの空気にゆるやかに馴染んでくるように思え、狭い茶室のなかにさえ、広がりを感じる。
 お茶を飲むことより、その空間での体験こそ、時が造り出した魅力を体感したことこそが、大切であった。
 この茶室の魅力は、永い間使い込んできて初めて生み出されたものである。竣工した時からその先、魅力が落ちてゆくばかりのものが多いが、使いこなすほどに魅力の高まるものを造らなければいけない。楊柳亭こそ、良い見本である。
 しみじみとした時間を持つ楊柳亭の空間を、残したいものである。

+: 積雪地での茶室は、むずかしい。寄り付きや露地廻りが、雪に埋まってしまうので、風情が造りにくいので、札幌でも、単独の茶室を造ることが少ない。この揚柳亭も、引き取り手が現れ、 取り壊されずに移築され、利用されたと聞いたが、細かく手を入れながら、春には、雪が溶けた 新緑の風を感じながら、お茶を楽しんでいると期待している。
 昨年、和風のホテルのなかに、立礼に使う茶室を造ったが、エントランス近くの雰囲気造りに 役立つように造ったので、本格的な茶道修行のための茶室ではない。かつて、金沢の旅館に入るとすぐに抹茶を出されて嬉しかったと云うと、ここは客室が多すぎるから、無理です。と言われてしまった。立礼とはいえ、茶室の持つ、狭くて窮屈な雰囲気を味わって欲しいと造り、水屋まで 用意してあるので、「お茶室で、椅子に座って、お抹茶を。」という特別メニュウでもつくって、 使って欲しいなあ。