再見「ロングランエッセイ」の+と-

48:「 大原邸 」  住宅雑誌リプラン63号(2004年1月1日)より一部転載

 昭和の初めに、英国の邸宅を見本にしながら建てられた大原邸は、シャーロック・ホームズとワトソン君が訪れる邸宅のような雰囲気をもつ。大きな屋根が特徴的で、ほぼ四階分の高さの大ぶりな木造の住宅である。居間の南側には、いま流行のコンサーバトリィという温室のようなスペースも造られており、二階には、かつて藻岩山が見渡せたという六角形の展望室もある。さらに洋館の南側にある庭は、大ぶりな石組みと池を中心にした堂々としたものである。造園家に聞くと、「最初はコマコマしたものだったに違いない。長い期間、雪や寒さに晒され、この土地に合ったものだけが残って、この姿になったと思う。だから、この庭は北海道の風土に根付いた本格的な庭といえるんじゃないか」という。そうだ。長い時間と手間を掛けて、風土に合うよう、そう造り上げてきたものを大事にしなければと思う。札幌円山地区に残る美しい昭和の住宅のなかでも、もっとも貫禄のある横綱格の大原邸が消えてしまうのは大変残念である。その最後の姿を眺め、別れを惜しんで欲しいと思う。
追伸:残念にも、(2004年)11月18日より解体工事が始まり、もう姿を見ることができなくなってしまいました。合掌

+: 円山地区に残っていた魅力的な木造住宅を十軒程選んで、道新に紹介してから40年も経った。 担当の記者が「円山住宅散歩・半世紀を生き抜いた個性派たち」というタイトルを付けたが、それぞれのサブタイトルも面白かった。どれも1930年頃に建てた木造住宅だが、no1ー空への膨ら み、no2ーあふれる情感、no3ー特異な雰囲気、no4ー光彩さまざま、no5ー漂う札幌詩情、no6ー 映える色硝子、no7ー職人気質今に、no8ー外壁たおやか、no9ー漂う懐かしさ、no10ーまさに 真打ち,といった調子で紹介したが、それらが、円山界隈らしい雰囲気をつくっていた。最後に紹介したのが「真打の大原邸」であった。今からだと90年近く前のものだから、ほとんど残っていないが、建築家田上義也の設計した旧小熊邸だけが、ロープウェイ下に移設され、内部空間を楽しめる珈琲専門店として残った。今はフィッシング道具店舗になっているけれど、2階にあるカ フェ部分で、独特な装飾的意匠が観れる。キレイとか上手を超えて、どことない微笑ましさを感じるが、存外とコレが長生きの根っこかもしれない。