再見「ロングランエッセイ」の+と-

68:「 不ぞろいの味わい 」  住宅雑誌リプラン83号(2009年2月26日)より一部転載

 私は、コンクリートブロックを二重に積み、その間に断熱材を充填した家をたくさんつくってきた。こうしてつくった家の中は、家じゅうがどこも同じ温度になるので大変評判が良い。
 建てて二十五年経った家の中のブロックの壁が、全然汚れていないので、初めて訪れた人は驚く。壁は次第に乾いてくるので、できたときよりも、白く明るく軽やかになって、爽やかに感じられる。
 昨年訪れたオランダのクレラー・ミュラー美術館で、面白いブロックの壁を見つけた。美術館の庭にあるリートフェルト・ミュージアムは、薄く平らな屋根と薄い壁と細い柱の構成が美しい、爽やかな建築であったが、そこに小さな穴がたくさん開いたかわいい壁があった。縦に積むものを横に積んでいるので、もともとは見えない穴が見えているのだが、その小さな穴の表情とランダムな感じが可愛らしい。どの穴も同じ顔でないのが楽しい。これを設計した建築家リートフェルトは、近代の名品といわれる美しい小住宅を設計しているが、住宅を造る細やかさが、このミュージアムにも現れている。「こんなブロックの使い方があるのだ」と、驚いた。不ぞろいの小さな穴が並んだ白い壁は、人に優しく、人を呼び寄せるような気がした。ブロックを使って、このように人が近づいてくるような家ができないものだろうかと思う。
 

+: 一昨年の秋、新しいホテルができ、昨年冬の前に営業をはじめた。大きなホテルではあるが、家族で泊まって、ゆっくり落ち着けることを大事にし、あまり豪華とか贅沢とかを目指さないことになった。奥には百室を超える七階建ての客室棟が控えているが、エントランス部分だけを別棟にして、木造平家造りに造れたので、昔の温泉場に軒を並べた宿のように、寄り付きを低く抑えることができた。百室を超える大きさのホテルではあるが、温泉場の旅館風情を残す姿勢も見せたいと蕎麦屋の名店のような「ーーー草庵」と決まった。
「草庵」という名に合わせて、楷書でなく、行書でもなく、草書の温泉旅館をめざした。着工後にも、実施図面に手を入れ続けたが、なかなか草書にたどり着かない。もともと草書に慣れていないから、すぐ行書あたりに戻ってしまうのは、「不ぞろい」に慣れていないからであった。素材の木をきちんと作り過ぎるからである。素材が、もともと「不ぞろい」であれば良いのではないかと覚醒し、笹竹、小竹、割竹などを壁に埋め込み、扉に取り付け、見切りに取り付け、格子の桟に使ったら、驚くほど、人に優しく、人を呼び寄せるようになった。建築家リートフェルトと「不ぞろいの竹」のお陰である。