再見「ロングランエッセイ」の+と-

9:「  葉枯らし  」  住宅雑誌リプラン24号(平成6年4月1日)より一部転載

雪の季節が終わると、温かな陽射しに誘われるように、樹の芽がふき始める。柔らかな芽は日に日に大きくなり、葉脈のしっかりとした葉になって陽光を受けようと、葉は掌を広げるように太陽を受け、水分を蒸発させて樹の成長のために働く…。
そうして造られた年輪は、葉の働きの1年間の成果であり記録である。年輪が細かくたくさん入った木材を見ると、それを造るために散った山のような枯葉を思う。そのうえ、枯葉は堆肥、養分となって、さらに樹の育つのを助ける。
四国の徳島で、樹は葉から造られることに注目して『葉枯らし』という方法で杉材を造る人に会った。昔からある製材法だというが手間が掛かるので、見捨てられていた方法らしい。樹を伐ってもすぐに運び出さないで葉をつけたままその場に置いておく。葉が残されているので水分が序々に、万遍なく葉から蒸発してゆくから材木としては均質なものになるという。かたよった乾燥をしないので、反りがすくなく、梁や柱のような大きなものに使えるという。
2,3か月寝かせてから枝を払って山から降ろすというが、伐った樹を寝かせておく期間は、大きさや樹の形で違う。乾燥させすぎては艶がなくなる。梅雨の時と秋晴れの頃では当然違うし、日陰と日向でも違うという。まるで伐った樹を生きているように扱う。

:葉枯らしの話を「なつかしいなぁ」という造園家に出逢った。木材会社に勤めていた時に、昔から伝えられてきた葉枯らしの技術を検証する機会があって、木材の含水率を調べたら、樹幹の含水率は、思った程下がっていなかったという。芯材と辺材がなじみやすくなるのは、水分だけでなく養分の変化にもよるという。
空師(そらし)が、「葉枯らしをすると乾燥する」というのを聞いて、枝葉だけでなく樹幹まで乾燥する、と勘違いしたに違いない。空師というのは、20メートル以上の高木の剪定、伐採する職人のことで、桧などの立派な木材を造るのに重要な作業をしているという。つまり、葉枯らしの前にも、充分丁寧な仕事が積み重なっている。樹木が大きくなって、優れた木材となるまでには何十年という手間ひまを掛けていることを、しっかり伝えろとおこられた。