再見「ロングランエッセイ」の+と-

63:「 ココでくらす ココロでくらす 」 住宅雑誌リプラン78号(2007年10月1日)より一部転載

    日本建築家協会北海道支部20周年記念建築家展「ココでくらす ココロでくらす」
    開催会期:2008年2月1日(金)より2月10日(日)まで会場:北海道立近代美術館

+: 昨年9月23日から10月8日まで「北海道の建築展2022」が開催され、4400人の来場者を集めた。私が設置した「SASA」について、写真家藤塚光政氏のコメントを転載する。

圓山彬雄の新作遺跡

 自作の住宅が現存するのに、その遺跡をつくってしまった建築家がいる。札幌の建築家・圓山彬雄だ。件の住宅とは1988年、札幌に竣工した「円を内包する家」こと笹野邸である。一方、圓山作の新しい遺跡とは「SASA」と名付けられたインスタレーションで、札幌芸術の森美術館で開かれた「北海道の建築展2022」に合わせてつくられた。
 建築家の多くは、住宅を設計するときから、いずれそれが廃墟となることを夢見ているのかもしれない。建築を構想し、ドローイングを描き、図面に落とし込み、打ち合わせを重ねた施工図をもとに、施工者とともに建築を完成させる。竣工した住宅は建て主に愛され、日々生活に使われ、人生を共にしながら熟成して、世代を超えて受け渡されていく。やがて、それがさまざまな事情や物理的な老朽化によって役目を終え、朽ち果てて廃墟に向かうことがある。
 だが、用を終えた廃墟には、建築の原初のイメージが色濃く残る。建築家は建築の永遠性を留めおくのに、ドローイングやリトグラフなどでそのイメージを再表現することが多いが、実物の廃墟を見ると自律に至ったおかげか、むしろ原初の姿を超える永遠のイメージをとどめているように感じる。
「円を内包する家」は、正方形の平面を持つ箱の内部に、円筒形の壁を立てた入れ子状の家で、壁のところどころを抜くことで円筒の内と外がつながり、豊かな空間が生まれた名作だ。圓山は実物大のスケールで布基礎をつくり、その上にコンクリートブロックを積んで、正方形の中に円が内包されたこの家の骨格を再現したのだ。しかも、住宅の工事で実際にコンクリートブロックを積んだ名人・道下秀宏に依頼して製作している。永遠の廃墟を生み出した圓山彬雄の徹底ぶりは、建築家の真骨頂である。
 インスタレーションは美術館の入口にある水盤の内部につくられたが、水盤の底から300mm上がったあたりまで水が張ってあるため、遺跡は地面から解放されてガラスのごとき透明性が加わり、内包された円が際立って見える。紅葉が始まった札幌郊外の地に、できたての住宅遺跡が出現したすごさは、実作を知っている人にしかわからないかもしれないが、見事なアートワークだと感服した。相変わらず人柄は気さくな圓山だが、もはや哲学者の領域に入ったようだ。
 残念ながら、「SASA」はもう見ることはできない。美術館との約束で、展覧会の会期末に取り壊されたのだ。まさに幻の遺跡である。圓山らしい潔さが清々しく、その分、鮮明なイメージが記憶に残った。  藤塚光政