再見「ロングランエッセイ」の+と-
65:「 設計料 」 住宅雑誌リプラン80号(2008年5月26日)より一部転載
三十年以上もススキノに出入りしているが、その頃から付き合っているすし職人がいる。三年ほど前に独立して頑張っていたが、息子がすし屋を継ぎたいという一言に感激して、大きな店にするというので手伝った。
まだ設計料をもらっていない。いや、決めていない。普通の住宅の場合、設計料の目安は大きさにもよるが、おおよそ一割から二割程度としている。
図面を書いて、見積もりをして、相談して工事に入ったが、厳しい予算なので、「もし工事でお金が無くなったら、現物支給でどうだ」という冗談も出た。「私が生きている間、食べさせてくれるっていうのはいいねーっ。長生きしようと思うしさ。病院に入っていて、もう危ないというときにも、病院を抜け出してきて、板前でさばなんか食べて戻っていくなんていいね」と笑った。
だんだん、この現物支給のほうが魅力的に思えてきている。
+: 今も、ススキノで親子で板前に立って、商売を続けている。これまでにリーマン・ショックやコロナで苦労されたが、それまでのお客さん達の力添えもあって、前よりも中心部に移って頑張っている。少なくなったが、今でも寄せてもらっている。移る時の仕事は、内装の上手い人が造ったので、お客の目線でゆったり「寿司」を楽しませてもらっている。見栄えもさることながら、手際の良さを見せるための仕掛けや、納まりは、職人それぞれの流儀がある。今は、親父さんの手さばきに合わせているが、そのうち息子の手さばきに合わせていくようになるのも楽しみである。と言っても、同年配の親父さんにも、こちらの好みをすっかり覚えているので、次々に出てくるものを、黙ってほおばっていれば、美味しい酒の席になる時間は、まだ残して欲しいと思う。