再見「ロングランエッセイ」の+と-

15:「  既存不適格  」  住宅雑誌リプラン30号(1995年10月1日)より一部転載

古い建物には、新しいものにはない何とも云えぬ風情があって好きである。その風情を残しながら、古い建物を改修・改造することを人にも勧めていたが、阪神大震災でコンクリートの建物が沢山潰れたのを見て、古い建物の構造的な強さに不信感を持つ人が多くなってしまった。
建物の構造基準は、この25年間に地震の度により安全なものへと進歩してきた。十勝沖地震で、函館大学の校舎の一階の柱がすっかり潰れたが、それらを教訓に鉄筋の量を多くするなどの改善、指導がなされた。その後も、地震に強い建物の基準の検討を重ねて、昭和56年に「新耐震」と呼ばれる基準が出来上がって、この基準に合った建物は今度の地震での被害は少ない。
簡単に云うと15年くらいしか経っていない建物は、頑丈と云っていい。それ以前に建ったものは、今の基準に当てはまらないので構造的に弱い。しかし建てるときの基準に合わせて造った建物が、後から出来た基準に合わないのは仕方がないので、「既存不適格」の建築と呼んで、そのまま使うことが許されている。
50年前の建物も100年前の建物でも使うことが出来るが、これを増築、改築するときは、新しい基準に合わせるように指導される。そのための補強工事が大変なので、建て替えてしまうことが多いので土地の歴史を感じさせてくれる、古い建物が失われて味わいのある街が消えてしまう。「既存不適格」の建物を活かして、街の歴史を感じさせる景観を造りたいものである。

:コンクリートブロック2重積みの住まいは気密性が高いので、2つの窓がないと空気が動かない。24時間換気設置義務のない頃に建てた住まいに、独特な換気をする家族がいた。朝起きると、家族4人で家中の窓をすべて開け放し、風除室に集まってしばらくじーっとしていると大きな吹き抜けがあるので、ほとんどの空気が入れ替わってしまう。こんどは全員で、すべての窓を閉めてまわると数分のうちに元の温度に戻る。室内に現れているコンクリートブロックや天井や床のコンクリートなどが常に20度程度あるので、窓を閉めた途端に放熱して室内の空気温めるので、またたく間に前の温度に戻る。コンクリートブロックやコンクリートの熱容量のおかげである。24時間換気は、これを1時間ごとにやれということであるが、もともと有害なガスを出さない素材を使った、この家は既存不適格ではないと思う。